「私が主人に、このことを伝えれば、どうなるだろうな」

 ファウスはつい、意地の悪いことを口にしていた。

 感心するというよりも、女のあざとい駆け引きに感じたのだ。

 たとえ、最初はそれが偶然の産物だったとは言え、いまでは確信犯的に配達しているのだから。

「そうですね……それは少し困り……ますね」

 おしゃべりな自分に気づいたのだろう。

 声のトーンを落とした彼女は、視線も暖炉の火よりもう少し下に落とした。

「でも……私のお役目も、もう終わりかもしれません」

 だが、ファウスの思いもよらないことを、ロニは言い出した。

「お嬢様は、もはや毎日でも手紙を送りたいと思ってらっしゃって……晴れの日に、私が配達しないのなら、他の侍女に頼むと言われてしまいました」

 火より下を、見ていたのではないと──この瞬間、ファウスは気づいた。

 彼女は。

 長靴を見ていたのだ。

 雨の日に、彼女が活躍した証であるその靴。

 晴れの日には、用なしの靴。

 ロニは。

 自分が、用なしになると思っているのだ。

「……」

 雨の日に、彼女が来なくなる。

 その事実は。

 予想以上に、ファウスにとって衝撃的なものだった。

 そして、自分が予想以上の衝撃を受けている事について、彼はひどく驚いた。

 何故なのか、少しも理解出来なかったのだ。