「ただいま戻りました!」



 勝手口から声をあげ家に入ると、私はすぐ兄さまを探した。

 さき子さまからいただいた桜模様の絵ロウソクを、一番にお見せしたくて。
 それから、先程の利勝さまのお話を聞いてほしくて。



 「兄さま?おられませんか?」



 兄さまの部屋を覗いても、そのお姿は見えない。



 (どこかお出かけになられたのかしら……?)



 家の中を探し歩くと、庭に面した縁側にポツンと腰掛けている兄さまの背中を見つけた。


 その姿を見つけて、浮き立つ心持ちのまま声をかけようとしたけど、
 その背中がなんだか淋しそうで、なぜか言葉がのどに詰まった。



 (………どうしたのかしら?)


 「あ……兄さま……?」



 ひとつ大きく深呼吸して、そっと声をかけてみる。
 兄さまは首だけ振り向いて、私を捉えた。



 「ああ、ゆきか……おかえり」



 その力ない動作に、声に。
 不安を覚えた私は、ゆっくり兄さまに近づいた。