雄介さまは、こちらからは姿の見えない利勝さまに顔を向けておっしゃった。



 「じゃあ俺は、支度を済ませてくるから。利勝は表で待っててくれ」


 「はい!!! 」



 と、利勝さまの玄関へと元気に走る足音。

 でもその音は私の耳には届かなかった。
 別のことに 心が捕われて。



 (……え?今、雄介さま。『利勝』って呼んだ……?)



 「さき子。俺達はここで失礼するよ。利勝を連れて砲術の訓練に行ってくる」

 「わかりました。いってらっしゃいませ」

 「おゆきさんも。ゆっくりしていって下さい」

 「あ……はい!ありがとうございます!」



 雄介さまは私にもお声をかけて下さり、さわやかに笑うと障子を閉めて奥へと消えてゆかれました。



 「さ……さき子さま!あ……兄上さまは、と……雄治さまを『利勝』と呼んでおられるのですかっ?」



 障子が閉まってからあわてて私が尋ねると、



 「え?ああ。ええそうね?そういえば、あの子をそう呼ぶのは、兄上くらいなもんね?」



 この家ではそれが当たり前のことなのか、さき子さまはのんきに聞き流している。



 そうなんだ………。