「あぁ……伝えるのを忘れておりました。
リオン様の件ですが……もう大丈夫なようです」


……その言葉を聞いて、私は一瞬動きを止めた。


「アパートの方もバイト先のバーの方も落ち着いたようです」

「……そう」


デスクの上の資料を眺めながら……たった一言だけ発する私を見て、ウェルスが口を開いた。


「……カノン様。
リオン様のことは……」

「…………………」

「……本気なのでございますか?」


……私は何も答えずにただ資料を眺める。

頭になんか全然入ってないくせに、ただ……目の前のものを見つめる。


「この前私が見たことは国王様には報告致しません。
ですが……」

「……あまりにも目に余るようだったら報告するって?」

「……カノン様は普通の女性ではありません。
その両の肩には何億という人の生活がかかっています。
それに……カノン様には……」


……ウェルスはそこで言葉を止める。

後は察しろってことらしい。


……分かってる。

そんなこと初めから……分かってる。

けど……


……頭では分かってても、心は追いつかないんだって。