「カノン……大丈夫か?」


昨日からマスコミ対応に追われて大変だとメイドが話しているのを聞いた。

きっと、そのせいで疲れているのだろう。


「大丈夫。
ありがとう」


カノンはそう言って小さく笑うと、俺の横に立って何とも言えないような顔で庭を眺めた。


「ここからの景色はいつも変わらない……」

「……え?」


俺が聞き返すと、カノンは庭を眺めたまま無表情で口を開いた。


「……何も見えないの。
ここからじゃ……何にも」


俺はもう一度庭を見た。

緑豊かなこの庭……。

何が見えないのか、俺にはよく分からなかった。


「綺麗な庭が見えるだろ」

「庭なんて……いつでも見れる。
下に下りればそれこそよく見える。
でも……そうじゃなくて……そんなんじゃなくて……」


カノンは切なげに庭を見つめた。