「……分かってたんだ。
最初から何もかも……全部。
……国王様がカノンのことをどれだけ大切に思ってるか。
ウチの母親がどんな提案をしたところでカノンの王位継承権を撤廃しないってことも……。
……こんなことをしたって……カノンが君を思う気持ちは止められないってことも、ね」

「ディラン様……」

「……俺は君が羨ましかったのかもしれない。
カノンに思いを寄せられている君が……。
カノンの笑顔を取り戻した君が……。
……カノンに幸せを与えてあげられる君が」


……この人は……ただ寂しかっただけなんじゃないか。

自分のために息子を国王にしようと謀る母親に……そんなものはどうでもいいから、自分のことを見てほしくて……

届くことはないと分かっていながらもカノンを想い続けることしかできなくて……

ただ……愛が欲しかっただけなんじゃないか……。


「……俺にはできないよ。
大切な人のために……自分の命を顧みずに車の前に飛び出すなんて。
……俺はきっと……そんなこと……」

「……できますよ」

「……え?」


ディラン様が驚いたように俺を見た。

俺はそんなディラン様の手を両手で包み込むようにギュッと握った。


「……ディラン様に……いつか本当に心から大切に思う人ができた時……。
……きっと、ディラン様は……俺と同じことをすると思います。
……ディラン様は……本当はとても愛情深い人だと思うから」


ディラン様は俺の言葉を聞いて大きく見開いた。

……そして、ゆっくり柔らかに微笑んだ。


「……カノンが君を選んだ理由、今なら分かる気がするよ」


その時のディラン様の表情は……どことなくカノンに似ている気がした。