「海で泳いだ記憶はそれだけ?」

「うん。
プールはあるけど、海で泳いだのは多分その時だけ」


ふぅん……と言いながら、俺は海を見つめた。


そして……ゆっくり口を開いた。


「じゃあ……今、入ってみるか」

「え?」


カノンが少し驚いたように俺を見た。


「足だけでも。な?」


カノンは静かな海と俺を交互に見た。

……そして柔らかに微笑んだ。


「……うん!」


その返事を聞いて、俺はカノンの手を引いて砂浜へと駆け出す。

サンダルを脱ぎ、波打ち際へと近づく。


「ひゃっ……冷たい……」


ペタペタと波打ち際で足踏みをするカノン。

その姿がまるで小さな子供のようで俺は思わず笑ってしまった。


「何で笑うのー……」


ぷくっとカノンが頬を膨らませる。

もう全ての行動が可愛く思えてしまう俺は重症か……。

今のカノンは国を背負った王女ではなく、ただの21歳の女の子だった――