マアサN「湿った生温い風が木々のすき間から私達の間をすり抜けていく。





手を伸ばせば届く三十センチの距離が埋まらない」





マアサ「マサノリ、リンゴ飴食べる?」





マアサN「きっと私の唇は赤く染まっている。





白い果肉が見え始めたリンゴ飴を差し出すとマサノリの唇が赤く染まるから」





マサノリ「マアサちゃんさ、明後日にはもう東京に帰っちゃうんだよね?」





マアサN「彼が顔を近付けた時の、男の子の匂いを今も覚えている」





マアサ「うん。………帰っちゃうよ?」





マアサN「懐かしくて、新鮮で。私の中の違う誰かが言葉を拾う」





マアサ「帰りたくないな」





モモカ「カエサナイ」





マアサN「私ではない何かが私の手を伸ばして、マサノリの唇に触れる。





赤い甘さを指でふき取って、私の口で舐めさせる。





私が私でなくなっていた」