曖昧ショコラ【短】

「お……」


「すみません、これでも精一杯早く来たんですけど」


恐らく『遅い』と言いたかったのであろう篠原を遮って、無表情のまま淡々と告げた。


その声は低くて、自分からこんなトーンが出るのかと驚いてしまう。


だけど、そんな素振りは微塵も見せないように篠原に視線を遣ると、彼は綺麗な瞳を細めていた。


「……どういう表情だよ、それは」


どこか困惑気味に落とされた言葉から逃げるように、視線を逸らす。


「まぁイイ。とりあえず入れ」


いつもよりも優しい口調の篠原を気味悪く思いつつ、小さなため息を漏らしながら足を踏み入れた。