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「リョーウ!!」


翌朝、教室に入ろうとした俺を
こう節まわしを付けて呼び止めたのは
何やら機嫌がすこぶる良さそうなケンゴ。


「なんだよ」


一方俺は機嫌最悪。

“ウゼエ”と思いっきり顔に書いて
振り返ってやったのに
奴はニヤリと笑って俺の肩を組み
そのまま廊下の端まで拉致していく。


「聞いたで〜リョウ。
昨日正門んとこで一悶着
あったらしいなぁ」


やっぱりその事か。
にしたって噂回んの早すぎだろ。


うんざりして顔をしかめたのに構う事なく
ケンゴはペラペラとしゃべり続ける。


「前はようあったけど
最近とくとナリ潜めてたからなぁ
アキ狙って正門で待ち伏せする輩。
お前と一緒に俺も何度か蹴散らしたやん?

でも珍しいなぁ。
んな派手にやり合うなんて
そんなにしつこかったん?その男」

「別に」

「別にって……
だってそいつにやられたんやろ?
その傷」


と口元を指差しつつ指摘されて、
やっぱりウゼーなと
舌打ちを返して顔を背けた。


「……シンだよ」

「は?」

「だからThe Cloggerのシンなんだよ、
その男って。
あいつが正門で待ち伏せしてて
アキに“好きだから俺と付き合え”って」


無表情でそう伝えてやったら
ケンゴは一瞬絶句して
すぐに絶叫ともいうべく大声を上げた。


「は!?シンがって……お前!!
早よ言えやそーゆー大事な事は!!
うっわーマジかい
ってリョウいいからここ座れ」

「もうすぐ本鈴なるんじゃね?」

「そんなんどーでもえーわ!
もっと詳しく説明せーや」


普段余程の事でも動じないこいつが
こんなになるのは珍しい。

でも当たり前か。
あのシンの再登場ともなれば。


何事かとジロジロ見てくる周囲の視線は
この際気付かないフリで
仕方なくその隣にしゃがみ込んだ。