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放課後の廊下。

部活や帰宅で生徒が山ほど行き交う横で
大きな窓を背にしながら淋しげに俯くのは

現在大流行中の
インフルエンザになったとかで
最近顔を見せなかった軽音部後輩のタケ。


「……そんなの俺
納得出来ないっす」

「お前が納得しなくったって
もう決まった事なんだ」

「でもだからって……。
東京でのライブ見て
俺本当感動したのに
先輩達ならきっと夢みたい事
やってのけてくれるんじゃないかって」

「タケ……」


話の内容はもちろん
カズマがバンドを抜けるって事。

一週間近く寝込んでたこいつは
最近あった色んな事を
幼なじみのミヤから今日やっと聞いて
わざわざ俺の教室まで押しかけて来たんだ。

しかも超涙目で。


よっぽど病気がキツかったのか
タケは一回り小さくなったように見える
顔を曇らせつつも
強い口調で訴えかけてきた。


「アニキは本当にそれでいいんですか?
カズマ先輩がギター辞めるなんて
不可能に決まってるのに。
絶対後悔するよ、
みんな……絶対――――」

「そう言うなよ、タケ。
後悔しないように
俺らも色々頑張ってんだから」

「でも、こんなの正しいわけない。
新しいギタリストとか
俺、そんなの嫌だ」


勝気な目を潤ませながら
頑なに言い続けるかわいい後輩。


こんなに俺らのバンドのこと
考えてくれてるなんて
切ないながらもうれしい気持ちになって
隣の赤い髪を見下ろした。


「ごめんな、タケ。

そういう気持ちスゲー嬉しいし
ホントはお前の願いかなえてやりたいけど
今回ばかりは無理なんだ。

カズマだって予備校行き始めたらしいしさ。
半端な気持ちであいつが大学とか
目指せるわけないだろう?
だから今更惑わせたくないんだよ。
お前にもわかって欲しい」

「……アニキ」


それからタケはリングのついた拳で
鼻をグシグシと擦ると
心を落ち着かせるように息を吐いた。