桐原家は国内有数の大財閥で、いくつもの企業に関わり、巨万の富を有しているという。

その桐原財閥の次期当主と噂されていた桐原静也は、最近メディアでの公式発表が大きく取り上げられたばかりだ。

その見た目一つとっても女性からの人気が高い。



その、静也の綺麗な目に見とれていると、彼はフッと笑みを浮かべた。

「ようこそ怪盗さん」

そう言われて、彼女はハッと我にかえる。

「……次期当主ともあろう貴方が、たった一人で怪盗の待ち伏せ?」

彼女はにっこりと余裕ありげに笑うとゆっくり彼に近付いた。

「君に会いたかったんだ」

「私に会いたかった?……貴方なら女性には困ってないでしょう?」

間近で向かい合った二人はしばし見つめ合う。

お互いの真意を探るように。

「それとも……」

彼女はするりと静也の首に腕を回した。

「私に恋でもした?」

「……意外と、背が高いんだね」

動揺を微塵も感じさせない顔で彼はそう返す。

「でも、ちょうどいい距離じゃない?」

彼女が楽しそうに笑う。その手には即効性の催眠スプレーが握られており、機会をうかがっている。

静也が彼女の腰に手を添え、二人の距離はキスまで後少しという程に迫っていた。