天井。





カーテン。





シーツ。





包帯。





眼醒めるとそこは、何もない、白く空虚な空間だった。





母が、泣いていた。





私の右手を握りながら、流れる涙を拭いもせず、ただわんわんと泣いていた。





「ママ……泣かないで………」





ぽろぽろとこぼれ落ちる涙が、私の手だけに降る雨だった。





いつも気丈に振る舞っていた母は頷き、





「お化粧がボロボロね」





と言った。





安心した彼女がマスカラと一緒に涙を拭う。





そして、





「ママ、トキオは?」





思っていたよりも強く響く私の言葉に彼女は息を呑む。





その意味を、その理由を、教えて。





聞けば私は、私を失うかもしれない。





でも、知らずに過ごすよりもいい。





「トキオは? トキオはどうなったの?」





右手を強く握り返す。





力を入れる度に体が軋むように痛かった。





私の身体に巻き付いた包帯が囁く。





お前は生きている。





生かされている。





意味は? 





理由は?





私が巻き付いているのではない。





お前が巻き付かせているのだ。





その意味を、その理由を、答えよ。





「彼は、……生きてる。だから、今は安心して眠りなさい」





母が呼吸を整え、そう言った。





「よかった―――」





涙に濡れた微笑みを瞼に焼き付けて、私はもう一度眠りに落ちた。