「声か……。正直、難しいな。こうやってゆっくりと忘れていくんだろうね。あれほど大切だと思っていたのに」





「私、怖いんです。忘れていくのが。忘れたくないと思えば思うほど、トキオの声が消えていきそうで」





目頭が熱い。いろいろなモノが、溢れ出てきそうだった。




「だから婚姻届を出すの?」





彼の鋭い視線から逃れるように私は目を逸らす。





「これと指輪がトキオの遺してくれたモノだから」





私は彼との間にあるテーブルに封筒を置いた。





「ジュリ。トキオはまだ生きてるよ」





彼は強い眼差しを向ける。





「死にも等しいかもしれないけど、トキオは生きている。いつか奇跡が起きて―――」





「奇跡なんてない!」





自分でも驚いた。放たれた声の大きさに、そんなセリフを言ってしまった事に。