「お帰り、牙呪丸(がじゅまる)。おや、どうしたんだい、その格好」

 堀川菓子処に駆け込んだ青年を、奥から出てきた少女が迎えた。

「転んだのかい? あ、ちゃんと間違わずに小豆買えたんだね。偉かったね」

 青年から小豆の袋を受け取りながら言う少女は、どう見ても青年よりも年下だ。
 にも関わらず、少女はまるで青年を子供のように扱う。

「すまぬ、呶々女。砂糖も買ったのだが、途中で男らに因縁をつけられて、駄目にしてしまった」

 しゅん、と項垂れる青年に、少女---呶々女はぱちくりとしていたが、がばっと青年を覗き込んだ。

「まあぁっ! 大丈夫だったかい? 怪我してないかい?」

 言いながら、ぽんぽんと青年の身体を叩く。
 相変わらず青年は、項垂れたまま、しょんぼりと言った。

「すまぬ。小豆だけでは、あんこは出来ぬというに」

 見た目二十歳そこそこの美麗な青年の言うことか。
 が、見た目十六・七の呶々女は慣れたもののようで、よしよし、と彼の頭を撫でる。

「大丈夫だよ。まぁ、砂糖は高いから、駄目になっちゃったのは残念だけど、まだあるから。心配しなくても、ちゃんと上用饅頭、作ってあげるよ」

 呶々女が言った途端、青年の表情は、ぱ、と明るくなる。

「とりあえず、お使いご苦労さん」

 はい、お駄賃、と差し出された特大モナカを、青年は満面の笑みで頬張るのだった。


*****おしまい*****