「・・・・・・砂糖が・・・・・・!」

 驚愕の表情と共に口からこぼれた言葉に、青年を取り囲んでいる若者たちは、皆内心『え、そこ?』と突っ込む。
 続けるならば、『この状況で砂糖なんか、どうでもよくね?』といったところか。

 そんな周りの男たちの心中になど一切気づかず、青年はすっかりこぼれてしまった砂糖の袋を投げ捨てると、一気に匕首の若者に掴みかかった。

「よくも貴様らあぁぁ! 我の楽しみをぉぉぉっ!!」

 ひいぃぃっと悲鳴を上げながらも、心の一方では『知らんがな!』と突っ込まずにはいられない。
 一体この美麗な青年は、何に対して怒っているのか。

「あんこの作り方を教えておいて、その材料を台無しにするとはどういうことだぁ! あんこが出来ねば、我の饅頭が出来ぬであろうが! ひいては我が呶々女に叱られるのだぞ!! 呶々女に頼まれた買い物までが無駄になったではないかぁ!!」

 うおおぉぉぉ、と若者たちを薙ぎ倒す青年は、確かに怒り狂っているようだが、その怒りの元は、若者たちにはさっぱり理解できない。
 あまりにアホらしい青年の言う内容に、若者たちを薙ぎ倒している彼の下半身が、蛇体になっていることにも気づかない。

「我は饅頭を食い損ねる上に、呶々女に叱られるのだ! この苦しみが、貴様らにわかるものかあぁぁっ!!」

 一際大きく叫び、青年は匕首の若者を、川の中へ投げ飛ばした。

「訳わからんわあぁぁっ!!」

 空中で叫んだ若者の突っ込みは、ばっしゃあぁぁ~~ん! という派手な水音にかき消された。

 大暴れした青年は、そのままくるりと踵を返すと、堀川のほうへと駆け去っていった。