「・・・・・・全く甘くないではないか。このようなもの、我は好かんが」

「何言ってんだい。これを砂糖で煮込むのさ」

「そういうものか」

 納得し、青年は小豆を袋いっぱいに買って、店を後にした。
 と、店から離れた途端、見るからに柄の悪そうな若者数人に取り囲まれる。

「何じゃ、貴様ら」

「まぁまぁ、こんな人の多いところじゃなくて、ちょっとあっちに付き合えや」

 若者たちは青年を連れて、路地裏に入ろうとした。

「これを早く持って帰らねば、我は好物の上用饅頭を食い損ねるのだが」

「何、兄ちゃんが大人しく有り金出せば、すぐに済むこった。それに、小豆だけじゃ、あんこは出来ねぇぜ」

「何っっ!」

 いきなり青年の顔色が変わった。
 目にも留まらぬ速さで、若者の胸倉を掴む。

「あんこが出来ぬ? 何故だ、呶々女はそんなこと、言わなかったぞ」

 いかにもな破落戸(ごろつき)に路地裏に誘われても、特に反応しなかったのに、あんこが出来ないと聞いた途端、青年は目を剥いて詰め寄る。
 意外な青年の反応処に、しばし呆気に取られていた若者たちは、とにかく青年のただならぬ形相に青くなった。

「あ、あんこを作るにゃ、砂糖もいるだろ」

 このような答えを、まさかこの状況で青年が欲しているとは思えなかったが、若者はとりあえず、あんこの作り方を口にした。
 言っている本人も、このような場でこんなことを言うのは馬鹿馬鹿しかったが、これまた意外に、青年は、ぱ、と手を離した。

「くっ・・・・・・。そういえば、先の店でも、そのようなこと、言っておったな」

 そのまさかだったようだ。
 こうしてはおれん、と青年は、若者たちなど初めからいなかったかのように、くるりと踵を返すと、茫然とする周りの者らをそのままに、さっさと歩いて行った。