約束をしてしまったのは良かったものの、私は悩んだ。
誰かの為に話を書く事が初めてだと言うこと。そして、彼女が何を好むのかと言うことに。
何から手をつけたら良いのか分からず、そのまま机に突っ伏すこと七日。
花のように笑う佐久子の顔を思い出し、何を書くべきかを決意した。
私が普段書かない男女間の恋愛の話にしよう、と。
しかし恋愛経験の浅い私に佐久子を納得させる話がかけるのだろうか。
いいや。書かなければならないのだ。約束なのだから。
桜の季節に出会った二人が過ごす一年を描くと決めたのは、更に二日が経過してからのことである。

ある一人の男がいた。男は茶屋を営んでいる。
その男が店にやってきた女と出会い、恋に落ちていく。
女には既に他界した自身の夫の事が忘れられずにいた。
男はそんなことも知るはずもなく。接していくうちに女にも次第に変化が出始める。