本当に死にたいと思った。



だけど、歩はここに来て隼政と雪芭がどんなに大切な友達か、日常がどんなに尊いものか、改めて思い知らされた。



こんなギリギリの状態にならなければ、気づけない自分の愚かさには失笑しそうになる。



歩は目の前の出来事から目を背けたくて閉じていた瞳を、今度はちゃんと現実を受け止めようと、ゆっくり開く。



歪んだ空間、がただ広がっていた。



「……え?え?」



一体何が起きたのかわからない歩の目の前に手を繋いだ緋葉と夕羅が現れた。



「歩……巻き込んで悪かった。還れるぞ、お前のいた現実に」

「ごめんなさい……謝って許される存在でもなければ、たくさんの罪を犯してしまった事を思えば、これは何の償いにもならないかもしれないけど……」



この状況をまったく理解できないが、ただ一つ言えるのは緋葉が窮地を救ったという、まぎれもない事実。



歩は大きく息を吐いた。



「それはそうですよ。許せるはずありません、でも……だから、気づけた事もありますから」



歩の言葉に緋葉と夕羅はただ頷いた。






歩の記憶、視界は、真っ白に塗り潰され、そのあとの事は何も覚えていない。






ただ覚えている事は、哀しいヒーローと哀しい神隠しの少女、の事だった。