民家を抜け畑の地帯を抜け、祠を目指す。小さな祠には何の神様を祭ってあるのか、どんなに聞いても村の誰も答えてはくれなかった、両親さえも。



畑を抜けたちょっと先に、祠はあった。その前に鳶色の髪の美しい少女が立っていて、緋葉が名前を呼ぶ前に振り向き微笑む。



「緋葉」

「ごめん待たせたな、冬音」



冬音は首を横に振った。



「いえ、あなたを待つ事も楽しいです」

「そうか。彼岸花、綺麗だな……冬音がここへ来た時も、彼岸花が咲いていた」

「そうですね……あの、緋葉」



美しい少女の顔が何かを訴えるように急に歪み、緋葉が何かを言おうとした時だった。



「あかは!!!」



二人同時に振り向き、冬音が思わず口元を両手で押さえた。



「雨芭…………?」



顔は腫れ上がり手も足も傷だらけで痛々しかった。緋葉は呆然と雨芭を見つめ、ぽつりと名前を呟く。



今頃雨芭は畑仕事を手伝っているはずで、なのに、傷だらけで雨芭はここに現れて――――



「一体何が…………」



緋葉は息をのむ。



何が起きているのかわからないが、何かよくない事が起こっているのだと肌で感じ取った。