夜明けと共に雨芭はまだ外が薄暗い中家を出た。



水露には本当の理由は明かさず、用事ができたとだけ簡潔に書いたメモだけを残し、携帯が鳴らないよう電源は切ってある。



べつに電話に出なければいいだけの話だが、水露の性格を知っている上での判断だった。



「にしても、変わった名前のカフェだよな。彼岸花、か……」



熊野明日香から指定された場所は、雨芭が存在さえ知らない店だった。メールの内容はすべて頭に入っているから大丈夫だが、早く着けば三分もかからない場所なのだと。



しかし、最後の一言がどうしても解せなかった。






『迷わないように気をつけてねぇ、迷ったら最後だから』






迷ったら最後。






最後と言われると連想するのは“死”だった。






「縁起でもない」






そう言つつも、雨芭の顔は笑っていなかった。