夕羅は優しい母も自分を空気のように扱う父にも、興味がなかった。三人の関係は空気のように軽く、家族の関係は最初から壊れている。



もし、母と父が突然交通事故や事件で亡くなっても悲しいという感情はなく、ただそこにあるのは“無”の感情だけ。



夕羅は綺麗だったが、まるで中身のない日本人形のようだった。



幾度季節が巡り――



夕羅の周りからヒトが、いなくなった。



庭先にある椿の花を手に取りながら、少女は儚げに微笑む。



「……神隠しに必要なのは、器と歪んだ精神。ヒトは神隠しを送り出し言葉として意味を持たせる事はできたけど、器がなかった。そして、選ばれた器がわたし」



椿の花を見つめる。



「不完全な神隠しを完全な神隠しにして、その力をヒトが扱えるようにするために、器が必要だった。……神隠しの器となったら、兄様の目も治る……また見えるようになるの」



夕人(ユト)



離ればなれの夕羅の兄。



「兄様が病気で失明してしまった光を取り戻してあげられる。兄様、やっとまた会える…………」



ずっと夕羅の世界に兄はいなかった。病気で失明した事が理由で、治療のために遠い病院に入院させられてしまったから。