その言葉に氷のように冷たかった口調が、突然強い憎しみと怒りを含んだものに変わった。



「ふざけるなよ、熊野明日香。すべて最初からこうなるように仕組んでただろ――全員が、綺麗に滅びるように」

「うふふ。わかっちゃったんだあ?わざとサポートするようなフリをして、全員を殺そうとした事……でも、どうして従ったの?従わなければ、お友達も殺さずに済んだのにねぇ」

「…………これ以上の悲劇をもうみる必要ないから。黄昏鏡真の願い無視して、一体なんのつもり?」

「解放のため。だって、これ以上生きてたって辛いだけでしょう?死んだら、次生まれ変わればいいの」

「…………とんだ歪みきった思考だね。宗教なんて、意味ない。しょせん人がつくったまがいもの。そんな考えだから、間違うんだよ」



雪芭は包丁を投げ捨てる。



「殺さないんだ?」

「神隠しを相手にするわけないだろ…………もう、こりごりだ。殺すなら殺せばいい。オレにはもう、何もないから」



吐き捨てるようにそう言い雪芭はずるずるとその場にへたりこむ。



血だらけの床や壁。



それさえも雪芭にはどうでもよく、歩と隼政の亡骸を引き寄せ、涙を流した。






「オレも今……く……から…………ごめ、ん…………嫌い、は嘘………だから……ほんとうは……」






そこで言葉は途切れた。熊野明日香はため息をつき、それからこうこぼした。






「誰も何も知らない方がいいの。ねぇ鏡ちゃんなら、わかってくれるよね……?」






熊野明日香は血の匂いが充満する黄昏鏡真との思い出が詰まったカフェの中で、噎(ムセ)び泣いた。