雪芭は鼻で笑う。



「おかしい?何が?こんな状況下で、まともな神経でいられる方が、異常だろ。自分の日常が壊れるのは、世界が壊れるのと一緒だ。世界が壊れるより、こっちの方がずっと最悪だよ…………」

「なんだよそれ……俺たち友達だろ!なのに、どうしてこんな事にならなきゃいけないんだよっ!?」



悲痛な隼政の叫び声がこの空間にこだまする。



熊野明日香は口を挟むわけでもなく、事の成り行きをただ見ていた。その表情にはうっすら笑みが浮かんでいる。



それはまるで、この後の展開を予期しているかのようだった。



雪芭はせせら笑う。



「友達なんてしょせん飾りだよ。周りの目を気にするから、その場しのぎで作るだけで、意味なんてない。最初から、友達と呼べる存在じゃないんだよオレたちは」



血の気が引いていく。



今まで都合のいい夢でも見ていたんじゃないか、と。



例え嘘の関係だったとしても、嘘でもいいから友達だと言ってほしかった。



「…………だめだよ」



歩が呟く。



記憶が戻ったわけじゃないが、これは違うと、こんな悲しい事絶対あってはいけないと体が自然に動いた。



「隼政なんて大嫌いだったよ!ずっと!!!」



雪芭が叫んだと同時に隼政の心臓目がけ包丁を突き刺した――つもりだったが、隼政の目の前に飛び出したのは。






「…………よか、った」






歩の服が真っ赤に染まっていく。






「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」






うっすら笑う少女と、






呆然と立ち尽くす少年と、






刺された少年と、






絶叫する少年。






とうにすべてがおかしくなっていた、と知ったのは悲劇の末路を辿ってからだった。