真っ暗な空の下無言のまま石段を降りる。歩はびくびくしながら、しっかり雪芭の手を掴んでいてそれは不思議な光景だった。記憶を失う前の歩では決して考えられないもので、雪芭も隼政も奇妙な現実に戸惑いを隠せずお互い終始無言だった。



熊野明日香は奇妙な唄を口ずさみながら一段飛ばしをしている。少女が履いてるのは薔薇が飾られた黒い厚底のサンダルで、どうしたらそんなに軽々と飛べるのか謎だった。






神隠しはヒトが生みし呪いの因果



切っては切れない歪みの関係



断絶の剣永遠を終わらせる



使い手は永遠を手に入れ真逃れよう



神隠しは永遠の牢獄へ



ヒトは真実へ



それは始まりか終わりか



熊野明日香の唄は奇妙で儚く闇の中で朗々と紡がれる。唄の意味を今一理解できない隼政は、雪芭を見たが無表情なまま首を横に振られた。



「……忌まわしい」

「は?」



聞き取れないような小さな声だったが、隼政にしっかりと届き思わず間抜けな声を出してしまった。



雪芭の瞳は氷のような冷たさをたたえていた。こういう時は、ものすごく怒っている時で怒りを隠そうともしない。



「何もかもが忌まわしい。神隠しも、人も、この、場所も……唄う女も。もう、たくさんだよ」



冷え冷えとしたその口調に、初めて友達である雪芭を隼政は怖いと感じた。



歩が哀しそうな瞳を向けている事に関しては誰も気づかなかった。