長い鳶色の髪の綺麗な女の人。



彼岸花はとても幸せそうに彼女の事を雨芭に話していた緋葉を思い出す。確か名前は――



彼岸花が思い出そうとするより、切羽詰まった表情の彼女の方が先に言う。



「わたしは冬音、神隠し避けの巫女。あなたにお願いがあるの――」



冬音はそう言って悲しげに微笑んだ。



何か言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。時間がないと冬音が彼岸花に手を翳すと、彼岸花は深緑の髪色の少年の姿へと変わった。彼岸花の面影はなく、自分の手のひらや足を見つめる。



緋葉と雨芭と同じ人間になれて嬉しい気持ちは、切なさに押し潰され彼岸花はぎゅっと拳を握りしめる。



今すぐ二人の元に行きたいけど、それは許されない――……



彼岸花は涙を流す。彼女もまた涙を流しながら、何度も謝りながら、もう一つの現実へ彼岸花を送った。






神隠しが悪いのか、人間が悪いのか。






彼岸花には何一つわからなかった。ただ、緋葉と雨芭の事を思うと涙が止まらない。






最後に見た空は、まるで血のように赤い空だった。