黄昏鏡真は追憶する。



遠くて近い、近くて遠いまだ幸せだったあの頃を。



今いくら望んでも、あの頃がやって来る事もなければ緋葉と雨芭に二度と会う事もできない。



人間のように、大切な人を失くした時取り乱す事も決してない。だからと言って、哀しくないわけじゃない。人間より花の方が、とても心は繊細だ。



黄昏鏡真は熊野明日香にすべてを託した。神隠しのせいで日常が狂ってしまった、一番の犠牲者である彼らをサポートするように、大切な少女を手離した。



自分だけのために、彼岸花の毒を調合したオリジナル紅茶はまだ熱い。



「今しばらく、夢でもみましょうか。僕の大事な――終わってしまった夢を」



黄昏鏡真はひどく落ち着いた様子でそう言った。






懐かしいあの頃、まだ黄昏鏡真ではなく“彼岸花”だったあの時が、一番幸せだった、あの頃。