僕は、倒れた彼女が目を覚まさないか、どちらかと言えば、今はそっちのほうが心配で、助けてくれたらしい老人よりは彼女のほうに僕の視線は釘付けにされ、そんな僕を見兼ねてか、老人は彼女の首筋に指を当ててこう言った。 

「心配ない。もう死んでるよ」

 えっ、死んだって、あんたが殺したんだよね?   僕は、二人の人殺しを目の前にし、到底これが現実のものでは無いような錯覚に逃げ込もうとしたが、老人はそれを許さなかった。
「どうせ怪我一つして無いんだろう?だったらさっさと起きろ。こいつをビルの中に運ぶからお前も手を貸せ」 

「えっ?」 

「早くしろ。お前は両足を抱えるんだ」

 老人は苛立ちを見せながら、一方的に僕に命令した。

 人って、死んだらやっぱり重いんだな・・・・ 

 こんな感想を浮かべながら運んでいると、フッと老人と目が合った。

「あっ」

 老人はすかさず反応した。 

「何が、あっ、だよ?」

 最初に身なりを見て老人と決め込んでいた僕は、近くから見たその顔に驚き、「老人じゃなかったんだ」と、つい口走ってしまった。