その時だった。背後で雑草を踏む足跡が聞こえた。 

「あ、やっぱりここで間違いなかったんだね。誰も居ないから間違ったんじゃないのかと思ってたよ」

 僕は出来る限りの笑顔を作って話し掛けた。 

 彼女は一つ一つ足場を確かめるように近づいてくる。 


「そう、ここで間違っちゃいないよ」

「そっか。なら良かった。で、これから何処に行くの?」 

 彼女は薄ら笑いを浮かべてこう言った。 

「何処にも行きやしないよ。だって、ここが目的地だからね」

「え?ここが目的地?」 

「そうだよ」 

 意味が分からなかった。こんな雑草だらけのところでいったい何をしたいというのであろうか。 

 彼女は、クシャックシャッと足音を立てながら僕の前までくると、またしてもニヤリと笑った。 

 違う。この笑い方は違うほうの笑いだ。僕は、ここにきて初めて身の危険を感じ、後ろに飛んで間合いを取った。 

 相手は女だ。どっちにしても負けるなんて事は無い。ただし、武器でも持ってたら話は別だ。とにかく、スキを見せないように最善の注意をしないと。  

「あんた、何ビビってるのさ。私は何も持ってないよ、ほら」

 そう言って両手を高々に開いた後、全部のポケットをポンポンと叩いて見せた。