「いらっしゃいませー……じゃなかった!ようこそ、救いの世界へ」

見るからに怪しげなおやじが怪しすぎる言い間違えをした。

「今しっかり!いらっしゃいませって言ったね」

「いえいえ!貴方は随分お疲れのようですね……ははははは……で、ここに来たからには、貴方、ツイてないのですね」

「はい……もうツキに見放されて……」

「ここに来たからにはもう大丈夫です!運気上々教会……じゃなかった!運気上昇天創造教会にお任せ下さい」

「えっ?今、名称間違えましたよね?」

「いえいえ、やはり貴方お疲れですね」

「やっぱり……なんか怪しいから辞めときます」

「いやいや!そんなそんなこと言わずに!お布施を!」

「は!?いきなりお布施!?」

「えっ……じゃ、寄付?」

「あーっもう!怪しいにも程がある!帰るっ!」

「ちょちょっ、ちょっと待たれよ!」

「なんだよ」

「貴方、タダで帰れば運に見放される姿が見えますよ」

「タダって、お前……あのな、運に見放されたから来たんだけど」

「あ……では、お布施して帰れば幸運に包まれる姿が見えます!」

「もういいよ!嫌だよ!帰る!」

「そんなこと言わないで!どうか!どうかお布施を!寄付を!お恵みをーっ!」

「何なんだよ!もーっ!」

「どうか1万円!」

「高いよ!」

「千円でも!」

「何で!?」

「頼むーっ!100円でもいい!頼む……しくしく」

「わかったよ!泣くなよ……泣きたいのは俺だよ!…………はい、100円」

「本当に100円ぽっち……貴方、ケチですね」

「じゃあ返せよ!」

「うそうそ!ごめんなさい」

「まったく……やっぱりツイてないよ」

「ありがとうございましたーっ!またのお越しを!」

「二度と来ないよ!」

「あっ!それから」

「今度は何だよ!」

「貴方にきっと幸運が降り注ぎますよ」

「わかったわかった!」







「はあ……」
俺は溜め息を吐きながら外に出た。


ポトッ


外に出た途端に鳥のフンが俺の肩に落ちた。


「くそーっ!!」

「さっそくウンが降り注ぎましたね」

振り向くと『運気上昇天創造教会』から満面の笑みでおやじが覗いていた。

「100円返せ!」

「ごめんなさい」





「はあ……」
俺は再び溜め息をつくと肩をすぼめて歩き出した。

「ついてるのは溜め息ばかりか……」



何となく振り返ると『運気上昇天創造教会』のおやじが

「ありがとーー」

とニコニコ笑顔で俺に手を振っている。


何だか急に可笑しくなって、俺は笑った。

笑ったのは随分久しぶりだ。


「ツイてるって何だろな」


気付けば辺りは黄昏ていて……
それはそれは見事な夕焼けが俺を包んでいた。



俺は天を仰いだ。



「こんな夕焼けが見れたんだ…………うん!ついてる!」


足取り軽く、俺は歩き出した。

が、知らない土地で道に迷ったようだ。


「やっぱりツイてないや」

俺は笑った。






(完)