女性は愉しそうに笑う。
俺はその不愉快さと、この巨人に恐怖を覚える。
嫌な汗が止めどなく流れた。
「ね?坊や。取引しましょう」
「は…?」
女性はコツコツと靴の音を鳴らしながら俺に踏み寄る。
俺は逃げ場などないと悟り、その場から一歩も動かなかった。
女性は指で俺の胸をなぞり出した。
「っ…!?」
「……いるんでしょう?」
「なっ、何がだよ……」
「え~?何がってぇ…」
女性は俺の耳元に口を運んだ。
すると吐息混じりに囁く。
「…そりゃあ大魔王様よぉ…」
「だっ……大魔王…様…?」
「だからね、坊や」
女性は胸元の指を上にスライドしていき顎までいくと俺の顎をたくしあげた。
「その大魔王様とこの坊やの命、引き換えない?」
「……っく…!!」
女性は悠太をチラッと横目で見ると妖艶な笑みで「ね?」と言い聞かせた。
「(どうすれば…)」
ゾクゾクの背筋が騒ぐ。
俺はただ、心の声を待った。
けど。
「(どうして、何も言ってくれないんだよ…!!)」
返事は、無かった。

