確かにいたんだ。
空中に浮かぶ人が。
奇抜なファッションをして、この世のモノじゃないみたいな綺麗な金髪の長い髪を靡かせて。
それに。
お伽噺に出てくるような悪魔の尻尾みたいなのがユラユラと……。
きっとあれは女性だった。
自意識だと思うが。
いや。
思いたいが。
あの女性は確実に俺を見ていた。
冷酷な。
血が滲んだような、赤黒い瞳をして。
ブルッと身体が震えた。
そして耳鳴りが起こる。
それと同時に聞こえた低いあの声。
『主よ』
「(!?)」
俺は目を見開いた。
そして次に聞こえた言葉に、身体が金縛りにあったように動けなくなる。
『主の命が狙われている』
「(は……?)」
嘘だと思い、溜め息を吐く。
そしてシャープペンを握り黒板に目を移す。
だけど。
身体は正直だ。
ドクッ
ドクッ
ドクッ
信じられないくらいに跳び跳ねていた。
首筋にじわりと滲む汗。
シャープペンを持った手にもうっすらと汗が滲んだ。
「(命が狙われてるって……どういう意味だよ…!!)」
けれど返事がなかった。
嘘だと、思いたいのに。
頭が混乱していた。
何をどうすればいいのか。
第一、今日はなんなんだ。
悪夢といい、瞬間移動といい。
「(………大体、主って…)」
焦る俺を更に焦らせるように、授業の終わりを告げるチャイムは鳴り響いた。

