人が通らない、外に出てきた俺。
もちろん初めからトイレに行くなんてサラサラ思ってはいなかった。
“「……大切な者を奪われる悲しみ、そちにも思い知らせてやる……」”
ふと蘇った声。
途端俺の体はビクッと震えた。
「大切な……者…」
そして浮かび上がるのは一人の女性。
だけど彼女が想っているのは俺じゃなくて。
愛しく呼ぶのは俺の名前じゃなくて。
「…夜月……晃汰…」
もう兄貴と呼ぶ事すらない。
呼べない。
呼ばない。
呼びたくない。
“悪”側についた人間なんか俺は許さない。
赦さない。
そんなやつに涼子を渡したくない。
涼子は涼子は……。
「(俺が絶対……)」
「刹那?」
声がして振り向いた俺の視線の先には零の姿。
零は両手に持っているフライドチキンを俺に渡した。
「ん」
「は?」
零はそれを俺に押し付け、顔をしかめている。
「ん」
「……零…?」
「やるって言ってんだよ!!さっさと食いやがれ!!」
「むぐっ」
一本のフライドチキンは俺の口に入った。
俺はそれを取り、一口食べた。
単純に美味しかった。
「ありがとな、零」
「なっ、べっ別に…たた、ただ肉を…やややっただけだ!!」
「ははっ(ううん、今の俺には十分ありがたいよ)」
照れる零を見てそう思った。

