本を閉じて、代わりにフォークを持つ。
ザッハトルテをフォークに乗せて、口に運んだ。
パリッとした控えめな甘さ。
胸をくすぐる甘酸っぱさ。
しっとりとしたプラリネの香り。
噛みしめて、味わって、飲みこむ。
これがわたしの片想いの味。
「おいしい……」
ずずっと鼻をすすった時、ケータイが鳴りだした。
無視しようかと思ったけど、あんまり長く鳴り続けているから仕方なく手に取る。
「え。宇佐美先輩?」
さっき駅でわかれたばかりの宇佐美先輩からだった。
どうしたんだろう。
そういえば様子が変だったけど。
「もしもし? 宇佐美先輩?」
『あー、杏ちゃん。いま大丈夫?』
「大丈夫じゃない。失恋タイム中」


