先輩の前に立ってむっと頬を膨らましていると、彼の隣りから強い視線を浴びてたじろいだ。


明るくてさらさらな、傷みと無縁そうな茶髪のこの人は、何度か電車で見たことがある。

たぶんヤンキー先輩といつも一緒だったような。



「ああ、もしかしてこのコ? 藤のキーホルダー壊したっていう」



うっ。

悪意のなさそうな笑顔で言われて、わたしはずきずきと痛む胸を押さえ頭を下げた。



「そ、そうです。今朝は本当にとんだご迷惑を……」


「宇佐美、しゃべんなうぜぇ。あれはこいつが壊したんじゃなくて、俺が壊したんだよ。
くるくるも謝ってんな。お前が悪いんじゃねぇだろうが」


「そうだっけ? ごめんごめーん。でも藤もこのコ庇うなら、もうちょっとソフトに言わないと。お前顔怖いんだから。
なんたって“ヤンキー先輩”だしね?」



整った、どこか品のある顔に同意を求められて、わたしは曖昧に笑っておいた。


この人、目が笑ってない気がするなあ。

だからかちょっと怖い。