それでもちょっとでも食べてもらえるなら、わたしはそれだけでいい。



「杏」



それだけで、いいのに……。



ぎゅっと固く目を閉じる。

そうしてないと、涙がこぼれてしまいそうで。


くるくる、じゃなくて名前を呼ばれて嬉しいはずなのに。



「この間の祭りで、お前があいつと……」



ヤンキー先輩の言葉が途切れる。


あいつっていうのは、宇佐美先輩のこと?

まだ宇佐美先輩とのことかん違いしてる?



「いや……なんでもない」



力のない声に思わず目を開けると、目の前にヤンキー先輩の顔があった。


びっくりして声を出すことも動くこともできずに、ただ先輩の切れ長の目を見つめる。

先輩も黙ってわたしを見下ろしてくる。