「あのさぁ」


「……へ? あ、はい」



うつうつとしていたら、前から声がかかった。

いつの間にかうつむけていた顔を上げたけど、宇佐美先輩は前を向いたまま。




「もうやめとけば?」


「え?」



不意に宇佐美先輩が立ち止まる。

合わせてわたしも足を止めると、ゆっくりと彼は振り返った。


いつもの笑顔はそこにはなくて、真剣な目で見つめられて思わず後ずさる。



「宇佐美先輩……?」


「あんなずるい男はやめておいた方がいいよ」


「ずるいって」


「杏ちゃん可愛いんだし、藤じゃなくても良い男はたくさんいるでしょ。
わざわざ彼女のいる男の為に、無駄な時間を過ごすことないって」



それは初めて聞く、宇佐美先輩のヤンキー先輩を否定する言葉だった。


突然どうしたんだろう。

宇佐美先輩はいつもヤンキー先輩の味方で、ヤンキー先輩のことを考えている、口はとんでもなく悪いけど友だち思いの人なのに。