山中さんは
“もうちょっと”とか“あと少し”など、
そういう曖昧な表現が嫌いなのだ。
具体的に、誰にでも同じように伝わる表現じゃないと、彼女は納得してくれない。
「桜沢さんのそういうぼ~っと適当にやってる感じ、良くないと思う」
「ええ? わたしそんな風に見えるんだ……」
ヤンキー先輩、わかりますか。
彼女のような人のことを、真面目って言うんだとわたしは思うんですよ。
「また言ってんの? 山中はさあ、頭固すぎ! もうちょっとはもうちょっとじゃん?」
山中さんの納得する答えを考えようとした時、横からいつものちゃちゃが入る。
同じ1年班の、デニム生地のエプロンを身に付けた須賀ちゃんだ。
ショートカットでそばかすが可愛い、ちょっとボーイッシュな友人が、わたしはとても好きだった。
大らかで癒されるんだ。
もっとも、山中さんにしたら須賀ちゃんのそれは、大らかとは言わないみたいだけれど。
わたしにとっては、間違いなく大らか。


