「桜沢さん。メレンゲ、このくらいで良い?」
三つ編みおさげに銀縁眼鏡、そして目にも鮮やかな黄色のエプロン姿の山中(やまなか)さんに声をかけられて、小麦粉をふるっていたわたしは手を止めた。
桜沢杏(おうさわあん)、東円寺高校1年、調理部所属。
それがわたしの肩書きで、いまは調理室で部活動中。
薄いピンクが基調の水玉模様のエプロンが、わたしの調理場での戦闘服だ。
調理部は学年ごとに班分けされていて、山中さんはわたしと同じ1年班。
実を言うとわたしは少し、彼女が苦手だった。
「どれどれ? ……う~ん。もうちょっと、かな」
山中さんの手元をのぞきこんで答えると、途端に眼鏡の奥から冷めた目を向けられた。
しまった、またやった。
「もうちょっとって、どのくらい? 具体的にあと何分ミキサーでかき混ぜれば良いわけ? それとも泡だて器を使えばいいの? 抽象的な言い方はやめてって、もう何回も言ってるよね」
出た。
山中女史の追求マシンガン。


