さよならでも愛おしい


 逃げ出すか立ち止まるだろうと思っていた俺は、驚きを隠せず歩みを止めていた。

 「若、ちゃん」

 「…さよなら、ありがとう」

 すれ違い様、立ち止まることすらしなかった彼女が笑顔で俺に言った別れの言葉。

 決意は固いのだろう。

 頑固な君は一度決めたことを曲げない強い女だったから。

 強がりな君は他人の前で泣けない弱い女だったから。