さよならでも愛おしい


 俺の進行方向と真逆、俺の方へ歩いてくる人影が顔を上げる。

 驚いて見開かれた瞳にはきっと、俺が映っていることだろう。

 彼女は、泣いていなかった。

 我が儘な俺は君の気持ちが知覚にあると信じているから、早足で駆け寄る。

 だけど、歩みを変えず彼女は俺へ向かってきていた。