以前の部署に行き私物の整理をしていたら
「鞍橋さ~ん!」
猫なで声が聞こえてきた。
「何ですか?」
冷ややかな私など気にしないかのように数名が私を囲った。
「副社長って恋人居るの?」
私が知るわけないじゃない。
「さぁ、初めてお会いしましたので」
「じゃぁ佐原さんは?」
もっと知らないわよ!
「仕事の話しかしなかったので何とも…」
ふ~んって言って残業を始めてしまった。
今日からの出社なのに副社長も佐原さんも人気者だなぁ。
「帰るの?」
七子が来た。
「明日から超ハードだから今日は帰って良いって佐原さんが」
「佐原さんかぁ」
「…佐原さんと知り合い?って言うか、正体がばれた!」
「桂が取れたか?」
「違う。いつかは知らないけど、素の私と合ったみたいなの!」
「詳しくは帰ってから聞くわ!美玲のアパートに泊まらして?」
いきなり?
「何かあった?」
「私も帰ってから話す」
意味深のまま七子は自宅に一度帰った。
「ヘルシーに豆乳鍋にしようかなぁ~」
なんてスーパーで夕飯を考えていたら
「TRRRR~TRRRR~」
ケータイに知らない番号からかかってきた。
「……」
一瞬迷う。
一応出てみた。
「もしもし?」
「もしもし」
えっ!?
「高原だけど?」
「あ……ふ副社長…お疲れ様です」
な…んだ…。ビックリした。
「あぁ。明日の事なんですが、今大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「僕の住まいは佐原に聞きました?」
「はい、伺いました」
「じゃぁ7時にお願いします」
「わかりました。あっ、佐原さんに鍵は預かりましたが、何号室か聞くのを忘れました」
「最上階。って言っても一部屋しかないから」
「わかりました。明日の7時にお迎えに上がります」
「ありがとう。宜しく」
「はい。失礼しま「美玲…」
“ドキッ”
この声を聞くと動けない。
「……イヤっ…お疲れ様」
機械音が聞こえても動けない。
“み~れい”
“愛してるんだ”
“ごめんな…ごめん”
“もう……疲れた…ごめん”
「美玲!?」
スーパーのど真ん中で直立不動だった私を偶々通りかかった七子が発見して我に戻してくれた。