「鞍橋さん。明日からは本当の姿で出社してきて下さい」
エレベーター内で耳を疑う言葉を佐原さんが発した。
「………」
今の私の顔は今までにない位崩れてるだろう。
佐原さんを凝視してしまった。
「何か?」
悪びれてないというか、俺は間違った事は言わないみたいな?
なんでも知ってますよ的な。
敵に回したくない人物だ。
「なんで…知ってるんですか?」
「あなた方が先に話しかけてきたのさえ覚えてないんですね?」
「…いつですか?」
“ポ~ン”
ロビーにエレベーターが着いてしまい佐原さんは話すのを止めて眼鏡を上げ正面玄関に歩き出した。
……小骨が喉につっかえた感じだ。
あの姿を会社にしてくなんて…。
今日付けで辞めようかなんてマジで考えていたら。
「鞍橋さん、副社長が到着しますよ。着いたら一応頭下げて下さい」
えっ?一応?
頷いた。
「あぁ、さっきも言いましたが、海外の生活が永かった為おかしな行動をとるかもしれないので正して下さい」
それは具体的にどういった行動?
車が私達の前で停まった。
佐原さんが頭を下げたので急いで頭を下げた。
「お早う御座います一寿副社長」
「お早う御座います副社長」
「オハヨウ」
この声…
その声に身体が跳ね上がった。
バッと頭を上げたら目の前に佐原さん以上のインテリが立っていた。
「佐原、美玲は?」
副社長は私を驚いた顔で見た。
「副社長、目の前に居るのが鞍橋美玲さんですが、鞍橋さんは覚えてないようです」
佐原さんは小声で耳打ちをした。
「……そうか…。…み……鞍橋君、今日から僕の専属秘書をお願い出来ますか?僕は副社長の高原一寿です」
「…はい。今日から宜しくお願い致します。鞍橋美玲です」
それからは超ハードだった。
1からの仕事に加え、秘書課のやっかみに七子のお昼休憩の話責め。
夕方からは死相がでてたと思う。
「鞍橋さん、今日は初日でいつになくハードでしたからあがって下さい。それと明日からは素でお願いします」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁあ!!