「行ってらっしゃいませ一寿様」


執事の内海が頭を下げていた。



熱でなのか徹夜明けなのかは解らないがボーっとソレを見ていた。



「どうかなさいましたか?」


「いやっ、行ってきます」




「一寿様…行ってらっしゃいませ」



“しっかり”っと言われた感じだった。



高原家の最大の汚点である僕は内海に育てられたものだ。


この屋敷ではもう家族と内海しか知らないであろう秘密


僕が跡継ぎと言われ始めたのは父親の失態からだった。



高原家は代々核家族で争いを嫌う。



なのに、僕が産まれた。


後妻の子として。


三つ上に姉が居る。


僕の事が大嫌いみたいだ。


話はおろか目も合わせてくれない。



そんな姉は、大学に通いながら父親の秘書になるため暇を見つけては秘書課に行って見習いをして居る



姉の母親は高原家の敷たりが苦で逃げ出したと聞いた。


その後直ぐに僕らが高原家に来たらしい。


お腹には既に僕が居たという。


つまりは、父親は不倫していたって事になる。


“ほらっ、あの子が”


“図々しい”


“跡継ぎって社長どうかしてるのかしら”


親戚や関係者が僕を見つけては口々に言いはなっていく。


そんな中、姉が放った唯一の言葉は



「なんの苦労もしないでお父様の下で働いてる貴方達には解らないでしょうね。
後少しで貴方達“あの子”から“肩叩き”されるわ。覚悟してなさい」



一気に黙らせた。


そんな姉に憧れて沢山勉強して“会社の跡継ぎ”って言われた時に頑張ろうって思った。



恩返しから始まったけど、僕はTOPの席より営業マンが好きだ。










薬が効いてきてるけど、熱で昔に戻ってたみたいだ。



「我が社のプレゼンはこちらです」


ベンチャー企業を経営してる親父


「我が社は今、経営難に陥っていて」


すぐさま対応できるプランも考え済み。


「コストを下げるにあたってはこちらとこちらの資料が参考です」


あっ、薬の効果が…


ヤバイな…


倒れそう…


「?高原さん、大丈夫ですか?顔色が…」


「大丈夫です」


顔に出すな。


営業マンの鉄則だろ。