「や、あの、急にはそんな……」


「いいから。お前、こんな顔にしといて逃げんなよ?」


「かかかか顔!? いや、それは……」


ぎーーにゃーー!

相沢くんがあたしの手を掴んだ。

大きな力強い手。

こんな状況じゃなきゃ喜べるのに、何てとっさに考えてしまう自分がいーやー。


相沢くんはぐいっと手を引くと、あたしの教室とは逆の方向に足を向けた。


どうしよう!
紗希、たーすーけーてー……っ!




「あ。鈴奈見つけたっ!」


ふいに呼ばれたあたしの名前。

相沢くんがぴたりと足を止めた。


「え、あれ? 片桐くん?」


声の主は片桐くんだった。
あたしと目が合うと、パタパタと駆けよって来た。


「鈴奈、さっきの現国の授業出てないだろ。今日課題の提出日だけど、覚えてる?
オレがまとめて提出しないといけないからさ、持って来てるなら今くれないか」


「あー……と。持ってきてる。後でいい?」


「今すぐがいいんだけどな。あとは鈴奈だけだから早いとこ回収して提出したいんだ」


片桐くんは困ったように頭をかいた。