椿ちゃんとは。

椿ゆいこ、と言う名前で、去年の4月に赴任して来た保健医。

あたしたちが入学したときに、椿ちゃんも入ってきたんだ。

小さくて、のんびりしてて、いつもほにゃほにゃと笑っている彼女は、
生徒からは『椿ちゃん』って呼ばれている。

年上といった雰囲気ではなくて、みんな友達のように話したりしていて。


可愛くて、優しくて、人に好かれる椿ちゃん。


あたしも好きだった。
頼りない近所のお姉さんって感じで、好きだった。



でも!

でも、相沢くんが好きにならなくてもいいじゃない!


あんな表情みせなくってもいいじゃない!


椿ちゃんが好きだなんて、そんなのないよ!


「……で、気付いた時には噛みついてた、と?」


「……ハイ」


話を聞いた紗希の言葉に、あたしは小さく頷いた。


「何で噛むなんて行動になるのかねー」


「それは……」


それは、多分あたしが相沢くんの唇ばっかり意識してたから。

それが、他の人を見てるって思ったら悔しくて、
今までの気持ちをどうしていいのか分かんなくって、

そしたら相沢くんの唇が憎らしくなったんだ。


「ま、何にせよ、唇が当たったんだし、キスはキスだね」


口ごもったあたしに、紗希は首をすくめて言った。