「で? 話してごらん?」


誰もいない寂れた図書室。
ここはあたしと紗希の絶好のサボリポイント。

いつもの定位置の、民族・風習の本棚の横の席に座る(ここは万が一先生が見回りに来ても、棚の陰に隠れて見つかりにくいのだ)。


買ってきたジュースに口をつけるのももどかしいようで、紗希は向かい側に座ったあたしに身を乗り出すようにして聞いた。


「あたし、鈴奈は絶対キスなんて出来ないと思ってた。なのにどうしたの?
ってかキスしてて噛んだとか? きゃー、何か激しいわねー」


「紗希、ちょっと落ち着いて。全然違うから」


あたしは昨日から何回出したか分かんない溜め息を吐いて、それから昨日の出来事を順に話した。


相沢くんと会って。
一緒に帰ることになって。
椿ちゃんに会って。

相沢くんの気持ちに気付いて。


「ちょい待ち。相沢って椿ちゃんのことが好きなわけ!?」


紗希が口をあんぐり開けて言った。
あたしはそれに頷いて答える。


「だって椿ちゃんって、ええー?」


紗希は椿ちゃんを思い浮かべているのか、
腕組みをして宙を睨んでいた。


「椿ちゃんって、だって、地味な感じでさー」


「派手ではないよね。清楚っていうの?」


紗希の言葉に答える。


「その椿ちゃんを、相沢が、かあ。意っ外ぃー」


「……うん。だよね」