泣きながら帰った次の日。

泣きはらした目で学校休みたいという可愛い娘に、
あたしの両親は無理矢理追い出すという愛の鉄拳をくれた。


仕方なく、お姉ちゃんのダテ眼鏡をかけてとぼとぼと登校したあたしを、バッグを机に置くヒマも与えずにトイレに引っ張りこんだ人がいた。


「愛とか優しさが欲しいのよ、紗希……」


「なーに寝言言ってんのよ。それより、見た!?」


「何がよー。あたし、今日はやる気ないの。図書室かどっかでサボる予定なの」


だいたい見るも何も、教室入ってすぐにここに引きずってきたのは紗希さんですよ。

はあーあ、人の優しさに触れたいわ、なんてしみじみ思うあたしに、紗希は焦ったように言った。


「相沢の顔! 下唇にさ、赤い傷ができてんの。周りはアザになっててさ、目立つ目立つ。
どーも噛み傷みたいなんだよねえ。唇だし、女にやられたかぁ?」


「……ああ、それ? あたしがやった」


ふうう、と溜め息をつきながら言うと、紗希はぎゃー! と叫んであたしを抱き締めた。


「鈴奈!? あれ鈴奈の仕業?
あんた、すこいじゃない! 
あたし、片桐と話まとまりそうだったのに、悔しいーっ」


「ちょ、ちょっと声デカいってば! 静かにしてよ」


あたしはぎゃーぎゃー言いながら抱きついてくる紗希の口を手で押さえるようにして言った。