実は今日、あたしは相沢くんを意識的に避けていて。


なるべく顔を見ないように、姿を探さないようにしていたのだ。


だって、恥ずかしいじゃない? キスするんだー、なんて考えながら顔見れないよ。


それがこんなにいきなりだと、こ、心の準備があ!


ああ、唇が目についてしまう!


「おい」


「ひゃ、ひゃい?」


「何突っ立ってんだ」


スニーカーを履き終えた相沢くんが、訝しそうな顔であたしを見ていた。


「なっ、なんでもない!」


あたしはバタバタと自分の靴箱に走り、急いでローファーに足を突っ込んだ。


何、うろたえてんのよ、鈴奈!


ああ、紗希の突っ込みが聞こえる。

ですよね、平常心に戻りたいです。


誰か、このあたしをどうにかしてよー。


「広瀬」


「へ?」



靴箱にもたれるようにして溜め息をついていると、げた箱の陰から相沢くんが顔を覗かせた(相沢くんの靴箱はあたしの靴箱の裏側なのだ)。


「帰らないのか?」


「か、帰る!」