通された相沢くんの部屋は、ベッドと本棚、ソファーと小さなテーブルくらいしかないシンプルな部屋だった。

黒が基調の部屋は思いのほか片付いていて、あたしはついついきょろきょろと見渡してしまった。


「何だ、物珍しいか?」


「うん。男の人の部屋に入るの、初めてだし」


「ふうん。とりあえず、座ってろ。
飲み物、コーヒーでいいか?」


「うん……って、別にいいよ! 足、痛むでしょ?」


「いや、いい。行かないと、あいつらが持って来るから」


あいつら、とは椿ちゃんと、ユキくんと呼ばれてる相沢くんのお兄さんのこと?

椿ちゃんは別として、相沢くんのお兄さんってどんな人なんだろう。


うーん、と考えてみるけど、一向に想像できない。


「とにかく、ちょっと待ってろ」


「あ、これ! あたしの好きなお店のケーキなの。いっぱい買ってきたから、椿ちゃんたちの分も」


背中を向けた相沢くんに、慌てて箱を渡す。


「ああ、悪いな。この中で、好きなケーキ何?」


「え? えーと、チョコガナッシュタルトかな。小さなチョコの粒が飾ってあって、かわいいの」


「そうか。そこ、座ってろ」


相沢くんはソファーを指差して、ケーキの箱を持ってするりと部屋を出て行った。